俺は幸運だ
この不況の嵐の中、
神様・・ じゃなかった、あの仙人は俺を見捨てていなかった
ある朝、バス通りに面した窓をノックする音で目が覚めた
窓を開けると、何とも驚くことに、
ママヘルを被ったあのS方似の仙人が、見慣れぬホンダ製カブにまたがり、誇らしげに微笑んでいたのである
(S方似の仙人についてはこちらの「埼京の酒(4話完結)」をお読みください)
そしてS方似の仙人は人懐っこくニヤつきながらこう言った
「お前、バイク盗まれたんだってなぁ、あっちで噂になってたぜぇ~」
俺は寝呆けていたせいもあり、近所中に聞こえる程の大声で怒鳴ってしまった
「お前かよ!バイク盗んだのは!」
この俺の大声で、近隣住人や通行人が集まり黒山の人だかりとなり
パトカーまでが出動する大騒ぎとなった
「俺は盗ったって言ってねぇーだろぉ~ お前警察に説明しろよなぁ~ 」
S方似の仙人は必死に抵抗していたが・・
俺は寝呆けていたせいもあり・・
咄嗟に警察にこう答えてしまった
「この人に盗まれました」
やがてS方似の仙人はデカイ顔を鬼のように赤くし、悪態をつきながら連行されていった
「仙人に悪いことをしたなぁ~・・」
さて、残されたホンダ製カブ
警察ももう行ってしまったし
キーもついていたし
S方似の仙人が取りに来るまで使わせてもらうことにした
カブはこれで2台目、そして「仙人に悪いことをしたなぁ~・・」という思いを込めて
命名「南極2号」とした
このホンダ製カブは「HONDA カブ100EX」通称「タイカブ」
タイ国のホンダのカブで、
日本で94年3000台限定で逆輸入販売されたその中の1台ということが判明
走行距離はまだ千キロ程度
97ccエンジンも快調
前のDX90と比べると車高が高く、エンジン音がトコトコと小刻みで心地よい響き也

これまた「仙人に悪いことをしたなぁ~・・」という思いを込めて
ピリオンシート、ブレーキペダルカバー、前カゴ、荷掛けホルダー
などを付けてあげた

が、しかし、
S方似の仙人は未だに現れていない。

この文章はフィクションであり、実在の人物・団体・事件などとは一切関係ありません。